10.後悔先に立たず
『出版契約書』

原稿を書いたあなたは自動的に、その原稿の「著作権」を獲得します。英語で「コピーライト」。つまり、原稿のコピーなどを行える(他人に原則として勝手にコピーさせない)権利です。 ただ、版元も原稿をコピーできなければ、本は出版できません。そこで、著者が版元による原稿コピーを許諾して(著作権の一部を預けて)、版元の「出版権」を承認し、著書を印刷したら、そのたびに著作権使用料として版元が著者に「印税」を支払うことにするのが出版契約です。 ある意味で、「あなたの今回の原稿を書籍化できるのは、世界で唯一わが社だけです」という、版元による独占契約のようなものです。出版契約を結んでいる間は、著者は他の人に原稿を譲ることができなくなります。 そのあたりの意識が薄く、出版契約書の条文に記してある著者にとって不利な事柄をいい加減に読んでしまったせいで、後々になってトラブルや泣き寝入りとなる場合も、少ないながらあります。条文の改正を申し出るかどうかは別にして、念のため注意しておきましょうね。 ただ、担当の出版プロデューサーも一緒に契約書チェックを行いますので、心配しすぎることはありません。

著作者名・書名

表記に間違いがあったら信じられないですが、いちおう確認しましょう。

甲と乙

契約書の条文で使われる代名詞で、「甲」が著作者(あなた)、「乙」が版元を指します。これらが入れ替わって表記されることは、あまり無いようです。

印税

著書の単価の何%が著者の取り分なのか、そして、どのタイミングで振り込まれるかを確認しましょう。最重要事項です。 また、印刷した部数だけ発生する「発行印税」なのか、それとも印刷した後の実売部数に応じて支払われる「売上印税」なのかも重要です。著者にとって有利なのは、前者の発行印税契約ですね。 著者と「企画のたまご屋さん」は、印税を7:3の割合で分け合うことになっていますので、その旨もご了承ください。

二次使用

これも比較的トラブルになりやすいですね。 特に「ネット上で掲載できる範囲」「映画化・ドラマ化・脚本化などの権利関係」はどうなっているのか確認しておきます。使用料の分配については、実際に二次使用のオファーが来てから、改めて版元と取り決めることになるでしょう。ですから、二次使用の話が、あなたへ舞い込んできたとしても、版元に無断で承諾したりしないよう注意してください。 著作物の二次使用は、なにも映画化などの大きな話だけではありません。発売後の販促活動では、雑誌・新聞・ネットの記事上に本の内容を一部載せることもあるでしょうし、テレビやラジオ出演が叶えば、本の内容をアナウンサーが読み上げたり、番組コーナーの話題として活用されたり、再現VTRを作ってくれたりすることもあります。また、電子書籍として改めて独自にダウンロード販売したい人もいるでしょう。 ちょっとした二次使用でも、そのつど版元に報告・連絡・相談するよう気をつけておけば、問題は大きくならないはずです。

献本部数(贈呈部数)・著者購入など

原稿執筆などでお世話になった方々に挨拶するときや、知り合いのマスメディア関係者にPRする場合は、著書の現物を渡せたほうがいいですね。 版元から著者へ無償で提供される「献本」の部数は何部か(普通は10部前後)、増刷のたびに何部提供されるのか(普通は1〜2部)、版元から直接メディア関係者に送付される献本(印税支払いの対象外)は何部なのかを確認しておいて、これからの販促活動に備えましょう。 また、献本で足りないぶんを著者が版元から直接購入する場合、価格はいくらなのか(一般的には定価の2割引)、見ておきましょう。

発行部数の報告・増刷の通知

売れてるんだけれども、著者に知らせずにこっそり増刷して印税の支払いをバックレる…… なーんてことは不法行為ですので、よほどの極悪ブラック版元でない限り、まず起きやしませんが、念には念を入れて、この条文があるか確認しておきましょう。

文庫化可能時期・契約終了時期

特に単行本で出してベストセラー・ロングセラーになった場合は、他の版元から文庫化の話が舞い込んでくるかもしれません。その場合、何年後から文庫にすることが許されるのかを確認しておきます。今回契約する版元が文庫レーベルも持っていれば、その版元に文庫化の第一次優先権が付与されることが多いです。 そして、契約終了時期はいつか、契約の自動更新はあるのか、いちおう確認しておきましょう。

ちなみに、社団法人日本書籍出版協会は、出版契約書のひな形を提供しています。
http://www.jbpa.or.jp/publication/contract.html

絵と文/長嶺超輝 協力/しらくまももこ