見事、「企画採用」の知らせが届きましたら、いよいよ原稿の執筆です!さて、どうしましょう。目次案に沿って、最初から書いていきましょうか。ただ、あなたの本のテーマへ読者の心を引き込む最初の一文が、じつは最も難しかったりします。いきなり何も思い浮かばずに挫折したら何にもなりません。 困ったときは、担当の出版プロデューサーにも遠慮なくご相談くださいね。先は長いのです。無理はしないでください。
幸い現代は、原稿を原稿用紙に書かなければならない時代ではありません。文章を何度でも書き直せて、いくらでも納得いくまで順番を入れ替えられる、パソコンという便利な道具があります。 まずは、書ける自信があるところから書いてみましょう。 最初、企画のたまご屋さんに送ってくださった企画書に「見本原稿」を付けていただいたはずですが、 その見本原稿に書き足していくところから始めてみるといいと思います。
本1冊の原稿には、平均しておよそ10万字が必要とされます。当然、いっぺんに書き終えられるような分量ではありませんので、 何か月かをかけて執筆することになるでしょう。いったん書くのを中断するときに、章の終わりなど、キリの良い場所で止めてしまう人が多いようです。 そうすると中断しやすいのですが、その代わり、執筆を再開しにくくなります。そこで、執筆の気分が乗ってきた最中に、あえて中断してみましょう。 原稿書きを「おあずけ」した未練が残る心理状態が続きますので、また執筆に戻りやすくなるでしょう。
たとえば、『日本人の嫁と外国人の姑の、仁義なき家庭内バトル』という出版企画が、幸運にも通ったとします。ベースは体験談ですよね。でも、実際に経験した出来事をそのまんま綴って、「ねえ、うちの姑さん、ひどいでしょ?」と言い張るだけだと、書いている本人は楽しくても、読んでいるほうは退屈で、冷めてしまうことがあります。 そこで、書き手による「解釈」という武器を使ってみましょう。解釈とは、起こった出来事に対する、あなたなりの理解です。 まず、姑さんの母国のことについて徹底的に調べます。たとえば、姑さんがすごく細かいところに気がついて小言を繰り返す性格なら、「姑の母国では、精密に造られたカラクリ人形が有名な特産品なのだそうだ。きっと細かいところまで見えてしまう民族的なDNAが姑にも脈々と受け継がれているんだろう。それを思うと、姑の顔の左右にある2個のほくろが、カラクリ人形のネジに見えてきた」などと、勝手な思い込みをイヤミったらしく書けばいいのです。いちおう根拠がある思い込みなので、読者にも割と受け入れられやすいでしょう。 「怒るとすぐに、両腕を振り上げて暴れる姑は、母国伝統の○○祭りの踊りのくせが抜けないに違いない」とかですね。さらに「この○○祭りって、日本で言えば阿波踊りみたいなものらしいですよ」のように、読者の立場に寄り添う解説があると、よりフレンドリーな原稿になります。
(※何の資料も無しに書いております。世界のどこかに似たような特産品やお祭りがあったとしても、実在のものとは一切関係ございません(^_^) )
また、あなたの出版企画と似かよった過去の本(類書)の研究にも使えるでしょう。類書には何が書かれていて、何が書かれていないのかを掴んでいれば、自分が何を書くべきか、立ち位置がだんだんハッキリしてくるものです。 「斬新なアイディアを思いついた!」と興奮していても、ちょっと調べてみたら実は、今までに様々な立場の人々が入れ替わり立ち替わりこすってきた定番のネタかもしれませんし、逆に、どうしようもなく深みに欠けた切り口だから誰も触れていないだけかもしれません。ひとりの著者として、本に囲まれながら冷静に自分を見つめ直すことができるのも図書館の良さです。 類書の主張に乗っかるか、類書の主張を崩して新たな展開を進めるか、あるいは今までの類書で触れられていない隙間を突くか、その方針はお任せしますが、後二者のスタンスを採ったほうが、原稿の商品力は強まる傾向にあります。
たとえば、『ストレス』をテーマに書いていて、急に書くことが無くなってきたとします。そういうときは視野をずらして、次の一筆に移れるネタをひねり出してみましょう。使えるかどうかは別にしても、たとえば、以下のようなヒントがありうると思います。
批判の範囲を超えて、他人に対して人格的な中傷攻撃をしたり、不用意にプライバシーを暴くなどして社会的な評価を下げると、不法行為として慰謝料の支払いを命じられたり、名誉毀損罪や侮辱罪という犯罪で検挙されてしまう危険があります。 他人をバカにした内容がウソでも真実でも、法律上は関係なく違法です。そして何より、著者としての品位も著しく下がります。 本の中で、誰かを名指ししてバカにするのはやめましょう。他人の揚げ足を取るよりも、あなたの持論を真剣に時間をかけて展開するほうが生産的です。
誰かの作品の一部を、自分の原稿の中に載せる場合は、原則としてその誰かの許諾をとる必要があります。許諾をとらずに掲載すれば、やはり不法行為や犯罪に問われかねない危険性があります。 ただ、許諾をとらなくても、作品の著作権が切れているもの(作者の死後50年以上が経過している古典的な作品など)なら、亡くなった作者の人格を傷つける改変をしないことなどを条件に、自由に使うことができます。 また、著作権が切れていない作品でも「引用」という形なら許されます。 他人の作品を引用するときは一般的に、以下の4つの要素を満たしていなければならないとされます。
絵と文/長嶺超輝 協力/しらくまももこ