8.弘法も筆の誤り
『校正』

そのうち、あなたのもとへ、書籍に載る予定のレイアウトで組まれた活字原稿が、上下左右に余白を持たせた形で舞い戻ってきます。これを出版業界用語で「ゲラ」といいます。
かつては「活版印刷」といって、文字を浮き彫りにした金属製の活字を必要なぶん拾い、ひとつずつ地道に並べてページレイアウトを作っていたわけですが、そんな活字たちを並べる台として用いる長方形の浅い箱のことをギャリー(Galley)というそうです。その語が日本でなまって、やがて校正用に作成された試し刷りのことも「ゲラ」と呼ぶようになりました。

校正には、出版業界で全国共通の「校正記号」を使って、編集者にも理解できる形で書き残します。よく使う校正記号は、せいぜい5〜10種類ぐらいしかなかろうと思いますので、訂正を入れているうちに、そのうち慣れて覚えてくるものです。

著者校と並行して編集者も校正を行いますし、綿密な調査や統計に基づいたような原稿であれば、さらに専門の校正者が入って、細かく間違いを見つけてくれる場合もあります。 一流のプロ校正者だと、たとえば「この裁判官は、この年にこの裁判所にはいませんよ」とか「この季節のこの時間帯に、オリオン座は見えないはず」など、膨大な知識や資料、論理に基づいて的確に指摘してくださるので、びっくりします。大変有り難いです。

初校ゲラを編集者に渡して、しばらく待っていると、校正ゲラの赤字に沿って直しが入った新たなゲラが届いてきます。2度目の著者校、「再校」のゲラです。再び間違いが無いかどうか、同じように赤ペンでチェックしていってください。 著者校は普通、再校までで終わりです。よほど間違いが許されない資料文献でない限り、著者校で三校や四校へ至ることは、まずありません。悔いの残らないように再校作業を進めてくださいね。 再校ゲラを戻した後は、一般的に原稿が「著者の手から離れた」と呼ばれる状態です。基本的にこれ以降の修正は許されないものと思ってください。

絵と文/長嶺超輝 協力/しらくまももこ