その苦しみは、病気かもしれない。死別という暗闇から、新しい人生に向かうためのガイドブック
大切な人を亡くしたあと、残された人は強い悲しみに襲われます。そして、時間とともに少しずつ、悲しみが和らいでいくのが普通です。しかし、なかには時間を経るほどに苦しみが悪化し、体調を崩してしまうほどに追いつめられてしまう人もいます。
それは、「遷延性悲嘆症」という「病い」なのだそうです。2019年に生まれたばかりの診断名で、本書では「死別後シンドローム」と呼んでいます。大切な人との死に別れが悲しみだけでなく、なんらかの症状になって本人を苦しめ続けます。その結果、現実を生きることがしんどくなってしまったり、実際に日常生活が送れなくなることもあるのです。日本では、7~10%が死別後シンドロームになるといわれています。
しかし、大切な人を亡くしているのですから、そう簡単に悲しみが和らがないのは当たり前です。一般的な死別の悲しみと「死別後シンドローム」は何が違うのでしょうか。
著者によると、その区切りにはっきりとした境界線はなく、喪ったことへの怒りや悲しみ、虚しさ、人生に前向きになれないなどの状態が、日常生活に支障きたすほどに続いていることが目安になるのだそうです。世界保健機関(WHO)では、「少なくとも六カ月以上経ても変わらずに苦しみが続いている」ことが診断基準になっています。
著者は、精神科医の清水加奈子さん。多くの死別後シンドロームに罹ってしまった患者と向き合ってきた経験から、本書は、大切な人の死によって陥った暗闇、病気から抜け出し、新しい人生に向かう人のためのガイドブックになっています。
50代の芳子さんは、耳が痛い、口が痛いなど、身体のさまざまな部分に不調があると訴えています。これまで耳鼻科や歯科など、さまなまな診療科を受診してきたものの、原因がわかりませんでした。そこで、内科の主治医から著者の精神科を受診するように指示があったといいます。
著者が芳子さんと対話を重ねた結果、わかったのは、ご主人のがん闘病死。そして、ご主人の看病にかかりきりになった結果、息子さんが自死してしまったことに原因がありました。「自分のせいで息子が亡くなった」と自分を責め続けてきたために、誰とも悲しみを共有できずに身体の痛みとなって知らせてきたのではないかと著者は言っています。芳子さんは隠してきた息子の死を誰かと悼みきる必要があったのです。
やがて、芳子さんは体調が落ち着いた日々を取り戻していきます。しかし、しばらく経ったある日、再び体調の異常を訴えはじめました。その理由は、息子さんの命日が過ぎたばかりだったから。
誰かと大切な人の死を悼みたいとき、そんな形で身体に現れてくることがあるそうです。
本書では多くの「死別シンドローム」の事例が紹介されています。大切な人との別れは、いつか必ずやってくるものです。大切な人とのお別れの仕方から、悲しみとの付き合い方、また、死別後シンドロームを抱える人の支え方などを知ることができます。
何もない時こそ「死別の悲しみ」との向き合い方は知っておいた方がいいのかもしれません。(中山寒稀)
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