ほんたま書籍紹介

治ることを「諦める」ことで、やりたいことを「諦めない」。病気と共存する生き方

長い事、原因不明の体調不良に悩まされ、ようやく原因がわかっても治療して完治することができない。そんな病を抱える著者のこんどうなつきさんは「治らなくても面白い人生を送ることはできる」といっています。現在の著者は、獣医になり、結婚し、子育て中です。病気を抱えながらもやりたいことを諦めず、幸せに楽しく生きるコツは「諦める」こと。本書は病気などの自分と切り離すことができない不都合を抱えていても、幸せになりたい人への指南書です。

著者の脳に異常が見つかったのは、ある年の春。その病名は「筋痛性脳脊髄炎（慢性疲労症候群）」でした。その日を著者は「異常発見記念日」だといっています。そして、家族、友達、職場の先輩がお祝いの言葉をかけてくれました。

なぜなら、中学生のころに原因不明の病気を発症してから20年。病院に行っても異常なしと言われ続け、ずっとその症状に悩み続けてきたから。症状がわかりにくい病気ほど診断名がつくことがありがたいと著者は言います。「仕事に行けなくなったりするのはどうしてだろう？」「私は大嘘つき？」「根性がない？」　毎日自分への問いを繰り返し、それを振り払うように必死で活動をして、仕事をして、寝たきりになることを繰り返していたのです。

そんな著者は、原因不明の症状を抱えながら、難関の獣医学部受験や国家試験に合格。浪人時代は、勉強には努力と根性は不可欠だと信じ、調子が悪いときはベッドに横になりながらも勉強し続けてきました。しかし、成績は上がりません。特に勉強のために手を動かすことが必要な数学は、長い時間座った姿勢を保てない著者にとって、かなりの苦手科目だったのです。

しかし、あるとき、家庭教師から勉強のしすぎを指摘されました。そこで「たくさん勉強をして頭を良くすること」「努力と根性で勉強すること」を諦めます。家庭教師のアドバイスに従って、最低限の公式だけを覚えて、それを応用して問題を解いていくようにしました。1つ1つ時間はかかりますが、解法を思いつくまでは頭に中でできるので、横になっていても数学の勉強ができます。苦手だった数学が楽しくなっていき、模試の全国ランキングに名前が載るまでになりました。

脳に炎症があるために、著者は身体的な問題ばかりでなく、脳の機能的な障害もあります。

著者の場合は、高次脳機能障害。物事を順序立てて進めたり、何かを選ぶことが苦手だといいます。

例えば、「洗濯物干し」。一見、単純な作業に見えますが、著者は苦手。洗濯機から洗濯物を取り出す時は、色々な種類のタオルの中から、一つを選んで取り出します。そのときに、「パンツ？　タオル？　シャツ？　あの服は黒で、あのタオルはロゴが入っている」という情報がそのまま脳に飛び込んできて、どれを選んでよいのか決められなくなってしまいます。そのため、とても時間がかかるのだそうです。さらに干すためのハンガーの色や形が違うのも混乱させる要因になっています。その結果、脳が披露し、立っていられないほど疲れてしまうといっています。

そこで動物の行動療法にヒントを得て、環境を変えることにしました。行動療法とは、噛み癖など動物の行動に困っている飼い主の話を聞いて、周りの環境を変化させ、解決に導くというもの。著者は、タオルとハンガーをすべて同じ色、同じ形に統一しました。これだけで色と形の種類が減り、脳の疲労感が減少し、洗濯物干しが最後までできるようになったそうです。

そして、最も大切なのは、病気を良くするのを諦めたこと。治らない病気になってしまった時、闘って直すことを第一目標にしてしまったら、一生ゴールできず、人生でやりたいことを逃してしまいます。そもそも著者が病気を治したかった理由が「もっと好きなことをしたい」「大切な人との時間を楽しみたい」などの理由であり、それは病気でもできることだと気づいたのです。良くなることを諦めた瞬間に「今、この瞬間」をもっと大切に出来るようになったといいます。

人は案外、思い込みに縛られているのかもしれません。「諦めること」が良くないと感じるのもその一つなのでしょう。もっと大切なことを諦めないために、「諦める」のはとても合理的でポジティブ。病気を抱える人にとっても、そうでない人にも、何が大切なのか、考えさせられる一冊です。（中山寒稀）

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