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2016 年 07 月 03 日

粋なことばの教科書

著者:

森永浩樹

出版社:

自由国民社

“「イベントの後、置酒したんだって?」

「まあ、ごくろうさんということで開いたんだ。最初は、浅酌低唱(せんしゃくていしょう)のつもりだった。でも、みんな痛飲して、メートルを上げる始末さ。」

「最後は、杯盤狼藉(はいばんろうぜき)かい。」

「まさしく、そのとおり。水鳥がたくさん出て、熟柿臭い(じゅくしくさい)親爺ができあがった。」

「ま、酒は憂いの玉帚(たまぼうき)さ。」“

とても、知的で粋な会話だと思いませんか?実は、次のような内容を語っていたのです。

 “「イベントの後、酒盛りしたんだって?」

「まあ、ごくろうさんということで開いたんだ。最初は、みんなおとなしく飲んでいた。でも、みんなよく飲んで、人が変わったようになる始末さ。」

「最後は、大暴れかい?」

「まさしく、そのとおり。空き瓶がたくさんできて、酒に飲まれた親爺ができあがった。」

「ま、憂さ晴らしはできたさ。」“

実は、よくある酒の席で大いに盛り上がった話をしていたのです。ほぼ同じ内容を話しているにもかかわらず、前者と後者は受ける印象がまったく異なります。前者では、まさかお酒の席で大暴れをしたことを語っているとは思えません。

現役の国語教師である著者が提案するのは、前者のような「粋な会話」。語彙が変化することで一味違う「大人の会話」が生まれます。それにより、会話主の好感度が高まり、評価が上がるそうです。

ほかにも、期日はさしせまったが、仕事ははかどっていないことを「日暮れて道遠し」、答えることができないで、左右を見回して言い紛らわすことを「顧みて他を言う」など、ワンランク上の言い換えができる言葉を紹介しています。

著者が「粋な言葉」としてあげているものは、やや古風で耳慣れない感じがありますが、優美な言葉や知的な印象の言葉が多く、字面が美しくなっています。ぜひ、手紙をしたためる際に使ってみたいと思いました。また、日本語独特の婉曲な言い回しが多いため、言葉のクッションとしても覚えておきたい表現が多くありました。(中山寒稀)

粋なことばの教科書