2020年度の「企画のたまご屋さん大賞」に、『ダメ人間だと思ったらHSPでした!』(染井アキ著/産業編集センター刊)が選ばれ、2020年12月17日に産業編集センター様の会議室にて贈賞式が行われました。
著者の染井アキ様と担当編集者の福永恵子様に記念の盾と特製どら焼きを進呈し、企画が本になるまでの経緯や刊行後の反響などについてお話をうかがいました。(以下、敬称は略させていただきます)
(インタビュアー:寺口雅彦)
・企画のたまご屋さん側の参加者
山本洋之(企画のたまご屋さん代表理事)
飯田みか(「たまご屋さん大賞」担当)
寺口雅彦(『ダメ人間だと思ったらHSPでした!』担当)
■この企画にオファーをした理由
――今回、たまご屋さん大賞を受賞された『ダメ人間だと思ったらHSPでした!』は、当初『根暗女がご機嫌に生きる方法』というタイトルで配信されました(2019年6月13日)。最初にこの企画をご覧になったとき、どのような印象を受けましたか?
福永:同僚の男性から「面白いエッセイ風の企画が配信されている」と聞いて、見本原稿を読ませていただきました。というのも当時、女性の書き手によるエッセイを出してみたいと思っていたからです。
――オファーがあったと聞いたとき、どう思われました?
染井:単純にすごくうれしかったです。
――実際に原稿をお読みになって、いかがでしたか?
福永:広い意味では自己啓発というか生き方指南の活きのいい内容だと思いました。でも読んでいるうちに引っかかり始めまして……。「この人が書くべきことは、根クラとか根アカとかいうことではないのでは……」と考えるようになりました。
ご機嫌に生きるにはこうしたらいいと書かれていましたけど、フツーの人はそこまでは考えられないのでは、というポイントがいっぱいありました。再読してみて、その思いはますます強くなりました。
――例えば、それはどんな部分に感じましたか?
福永:相手との無用なトラブルを避けるために、その人にとっての地雷の場所に敏感であるべきだという提言がありました。それがわかれば苦労しないということもあって、原稿の気になるところをピックアップしてみました。そうしたら、ボリューム的にかなりの数になりました。その部分の見方を少し変えてみたら、これはHSPの気質そのものではないかと思えるようになりました。
ただ、このことを染井さんが自覚されているかはわかりません。こんなことを聞いていいのだろうかという思いも強くあり、不愉快な気分にさせてしまうのではないかとも思い迷いましたが、尋ねないことには始まらないので、あえてお聞きしたしだいです。
■「根暗女」が「HSP」になるまで
――福永さんは以前からHSPへの興味がおありだったとか……。
福永:3年ほど前から、編集者として「HSPという気質を持った人が、日常を過ごすときにどういうところが大変なのかなどを実際に知りたい」という興味がありました。
当時、大御所が書いたHSPの教科書的な本はありましたが、当事者の発言は表面に出てきていませんでした。私が知りたかったのは、HSPの方の日常生活がどれくらい刺激が強くて、やかましくて、神経を消耗させているのかといったことでした。
でもこれがぶしつけな興味であることはわかっていましたし、そもそも染井さんがそんなことを考えずに暮らしていらっしゃるのなら、私がそれを突きつければ、後戻りができない話になってしまうので、ためらいつつ、言葉を選んで問い合わせさせてもらいました。結局、本人に聞いてみるしか確認しようがなかったので……。
――そのあたりの福永さんの逡巡や葛藤は、染井さんとの間に入った私にも伝わってきました。でも、本人に聞いてみるしかないというのは私も同感だったので、福永さんのメールを貼り付ける形で、染井さんに尋ねてみることにしました。
「HSPでは?」と聞かれて、染井さんはどう思われましたか?
染井:その時点ではまだHSPという言葉も知りませんでした。で、試しにネット上の簡単な診断テストをやってみたら、ほとんど当てはまっていて……。
――自分がHSPかもしれないと思ったときは……?
染井:衝撃でした。今でこそ福永さんは人生の恩人だと思っていますけど、当時は本当に動揺しました。怖くて怖くて……。嫌という感情はありませんでしたが、とにかく衝撃でした。
――でも、福永さんの提案は受け入れました。
染井 自分が書いて面白いものになるのかと思いましたけど、それ以上に書かせていただける喜びがあったので、とりあえずやってみようという気になりました。
――提案された福永さんのほうは?
福永:大げさに言えば、一人の方の人生を変えてしまうわけですから、提案するまでにかなり逡巡がありました。「どうしても出させてもらいたい」という思いと、HSPの方に対して「申し訳ない」という思いが今でもあります。
――この時点で「根暗女」が「HSP」に変貌を遂げたわけですが、実際に改めて書き始めてみていかがでしたか?
染井:これまで自分のことをフツーの人間だと思っていましたけど、フツーになれない部分もたくさんあり、その原因は何なんだろうと思っていました。自分のどこが悪いのだろう? 自分のせいなのか、それとも環境のせいなのか……。原因追求を延々としていましたが、自分がHSPだとわかって、謎が解けました。その意味でも福永さん、そして縁を作っていただいた企画のたまご屋さんには感謝しかありません。
■本が出来ての思い
――原稿執筆の道中も、お二人にはそれぞれの葛藤があったようですが、それを乗り越えて本という形になりました。自分の本を初めて見たときの感想を聞かせてください。
染井:人生で一番うれしかったです。これまで、前向きに生きてこなかったせいか、うれしいという気持ちを経験したことがなくて、本を初めて見たとき、100%純粋にうれしいと思いました。ありがとうございました。
――2020年4月15日に刊行されてからは、新聞広告も複数回打っていただきましたが、反響はいかがでしたか?
福永:新型コロナウイルスで緊急事態宣言が全国に拡大されたのが4月16日です。人も物も動かない時期ですから、予定していた書店営業も満足にはできませんでしたが、読者からは、「ちょっと楽になりました」とか、「もう少し早くにこういうことがわかっていたら、やり直せたのに」という高齢の方の声もありました。丁寧で熱い内容の感想が他の本よりも多く寄せられている気がします。
染井:本を出させていただいたことで、どこかすごく楽になりました。いままで人に嫌われないように嫌われないように生きてきましたが、自分をさらけ出して書いてみて、それで嫌われても仕方がないんだと体感できて、人間的にも成長できたかなと思っています。
――最後になりますが、たまご屋さん大賞を受賞された感想をお願いします。
福永:先ほども申し上げたように、この本には、「出すべき意義がある」という思いと、「(出させていただくことで)染井さんに大きな負担をかけてしまう」という怖さの中で関わらせていただきました。そんな強い思い入れがある本が評価されるというのは有り難かったし、救いにもなりました。
染井:一度も賞をいただいたことのない人生だったので、最初に聞いたときは動揺もありましたけど、今はとてもうれしいです。すごく立派な盾までいただいて、本当にどうもありがとうございました。
――これにて一件落着ですね(笑)。こちらこそ、本日はどうもありがとうございました。
【本書の説明】
毎日全力で生きているのに、なんだこのツラさは! 転職5回・友達なし・規則正しい生活ムリ! 社会不適応なダメ人間だと思っていた自分はなんとHSPでした。敏感で心配性で、人一倍疲れやすいけど発見、驚きも盛りだくさんな日常を綴った一冊。
【メディア掲載】
ダ・ヴィンチニュース:共感しすぎて疲労困憊、空気読みすぎでパニック…社会不適合なダメ人間だと思った私は、HSPだった! | ダ・ヴィンチニュース (ddnavi.com)
【「企画のたまご屋さん大賞」とは】
1年間に「ほんたま」を通して出版された本の中から、 企画のたまご屋さんの会員が、
・販売部数
・企画のユニークさ
・出版文化への貢献
などの観点から、最も評価した書籍に贈る賞です。
今回の選考対象は、2019年10月1日~2020年9月30日に、 企画のたまご屋さん仲介によって発行された44作品です。
◆『企画のたまご屋さん大賞』は、2020年をもって終了しました。関係者および応援してくださったみなさま、ありがとうございました!