2019 年 03 月 27 日

「企画のたまご屋さん大賞2018」に、『猫にGPSをつけてみた 夜の森 半径二キロの大冒険』(雷鳥社)が選ばれました!

企画のたまご屋さん大賞

昨年度の「企画のたまご屋さん大賞」に、『猫にGPSをつけてみた 夜の森 半径二キロの大冒険』(高橋のら/雷鳥社)が選ばれました。

版元の雷鳥社様にて贈賞式を行い、記念の盾と特製どら焼きを進呈しました。贈賞式後には、企画のたまご屋さんスタッフも交えて、雷鳥社様にお話をうかがいました。

著者の高橋のら様は、遠方にお住まいのため贈賞式には参加が難しいとのことで、記念の盾と特製どら焼きを宅配便にてお届けしました。

「猫にGPSをつける」という発想から生まれた本書は、これまでの企画のたまご屋さんの配信企画の中でも特に目新しく感じるものです。本書が、どのような経緯で出版に至ったのか? また、編集の際に工夫したことや本書の魅力についてお話をうかがいました。

◾️「猫にGPS」という言葉のインパクトは絶大

——配信企画に手を挙げた理由を教えてください。

担当編集者Kさん(以下、Kさん):まず、「GPS」というアルファベット3文字の並びに、何より絶大なインパクトがありました。

担当プロデューサー小島(以下、小島):企画配信時のメールの件名にも、たしか「GPS」を入れていたと思います。

Kさん:企画を拝見すると、すでに原稿もあり写真もたくさんあるとのことで。猫好きにとっては癒される本になると思いました。

小島:本書は3章がメインの「GPS」の部分ですが、全体を通して、著者の高橋さんが書かれている猫との生活がとても魅力的ですよね。

Kさん:広大な大分の敷地を走り回っている猫たちとGPSとの異色のコラボと言えるかなと思います。

——本になるまでの期間は、どれくらいかかりましたか?

小島:たしか、2017年の5月頃の配信だったと思いますが。

Kさん:そうですね。企画をいただいたのは初夏で、翌年の4月に出版しています。メインとなる3章の「GPS」の部分までスムーズに読んでもらえるように加筆修正を何度かお願いしたこともあって、本になるまでに少し時間がかかっています。
 著者の高橋さんが猫たちにGPSをつけたのには、きっかけがあります。高橋さんは、山の中で猫6匹と暮らしているのですが、昼間、猫たちはどこで何をしているんだろう? と。朝、猫たちとお散歩しているのですが、お散歩で歩いていない遠くの場所に、うちの猫が吐き戻したらしいカリカリがある。知らないところでアクティブな活動をしているのではないか? ということで、GPSをつけたのです。 時系列的にも猫たちにGPSをつけるまでの説明が必要なので、順を追って書いていただき、3章のクライマックスに持って行きたかったというのがあります。

◾️「かわいい」だけではない、猫の野生面を取り上げたのが人気に繋がっている

——本書の売れ行きは、いかがでしょうか?

雷鳥社代表取締役・安在さん(以下、安在さん):おかげさまで増刷させていただきました。2月22日は「猫の日」ですが、ある書店さんから取り扱いたいと連絡がありました。猫本フェアをする書店さんのリストに入れていただいています。
「猫にGPSをつける」という内容の本書ですが、たとえば、GPSの機能に焦点を当てた本だったらあっという間に古くなってしまうけれど、本書の内容なら古くなることもなく、長く愛読してもらえると思います。

企画のたまご屋さん代表理事・山本(以下、山本):猫ジャンルには必ず熱心な読者がいるので、ロングセラーを狙える本ですね。

安在さん:本書を評価していただいている点は、猫の野生の面を取り上げているところです。猫のかわいい面を取り上げてまとめている本は多いですが、本書は、かわいいだけでなく、猫のアクティブな面にフォーカスしています。動物だから野性味があるのは当然なのですが、多くの人たちは、猫はかわいがる対象としてのみ存在していると思っているので、そこを覆す内容と言えます。

——読者の方からは、どんな感想が届いていますか?

Kさん:読者の方々の感想を見てみると、「憧れる」「自然の中にいる猫ちゃんたちとの生活がうらやましい」という意見が多いです。高橋さんの猫たちは半室内飼いなので、飼い猫と野良猫の両面を持っています。なかなか都会ではできない飼い方ですが、私たちの知らなかった猫の新たな面を観察しやすいと言えます。

山本:これくらいの自由な飼い方が、猫にとってもいいかもしれませんね。

Kさん:そうですね。飼っているというより、一緒に暮らしている感覚かもしれません。それが、ちょうどいい距離感で、読者の「憧れる」という意見に繋がっているのでしょう。
 猫たちは何キロも歩き回って帰ってきていたのがわかって、猫好きが喜ぶ内容だけれど、新しさを感じるものに仕上がっていると思います。

山本:全体的に新しさを感じる作品ですね。タイトル付けももちろんですが、装丁・カバーも新しい印象があります。

安在さん:カバーに、トコトコお散歩している猫ちゃんたちをデザインしてい流のが、書店さんにも読者の皆さんにも好評です。

Kさん:著者とデザイナーさんと話し合って、このような装丁に仕上がりました。私もとても気に入っています。

◾️猫の個性がGPSで見えてくる

——本書の面白さを1つ挙げるとしたら、どんなところでしょうか?

小島:猫たちにも個性があって、一匹一匹、性格が違うことがわかるところが面白いです。

Kさん:猫たちそれぞれの性格が、GPSの結果にも出てきています。そこを見ていただくといいですね。

山本:犬だったらこういう企画にはならなかったですね。

小島:猫も、思ったよりなつくんだということがわかったのも、面白かった点です。猫たちは朝の散歩で、飼い主の高橋さんの後について歩いているんですね。猫は人について歩いたりしない、もっと勝手気ままな生き物かと思っていました。

Kさん:著者が猫たちにGPSを付けたのは、研究というより愛情からというのがわかります。それを読んでいる読者も和みます。

山本:監視の目的でGPSを付けているわけではなく、猫たちへの愛情から来る純粋な興味というところがわかるところも、本書の面白さですね。

小島:猫たちは、ずいぶん遠くまで出歩いていたのですよね。それでも、体内時計は正確で、決まった時間にごはんをもらいに戻ってきているという。

Kさん:著者の高橋さんが、猫たちの動きをデータで残してくださっています。私も都会に住んでいなかったら、自分の猫にGPSをつけて観察してみたいです。

◾️読み物としての厚みもあり、猫たちの写真も満載

——本書を編集する際に、工夫したことがあれば教えてください。

Kさん:編集として何かを工夫したというのは、特段ないといえばないです。著者の高橋さんが写真も撮ってくださっていて、素材がよかったので。工夫したところがあるとすれば、どうすれば読者の方に、3章のGPSのくだりまで自然に読んでもらえるのかというところです。GPSをつけることになった経緯から書かれていますので、一通り読んでいただき、幸せな気持ちになってもらえればうれしいです。

山本:著者の高橋さんと猫たちとの距離感がいいですよね。

Kさん:はい。私もたまに開いて読むと、自分の飼っている猫との関わりをいい意味で見直すきっかけになります。読む方にとって和みになる本になったらいいなという思いを込めて作りました。著者の高橋さんも、そのようなことをおっしゃっていました。

小島:文章も写真も素材がいっぱいあったから、選択肢がいっぱいありましたね。

Kさん:写真も千枚まではいきませんが、何百枚とたくさんあって、どれもかわいくて選べないのです。写真選びに時間を費やしました。

小島:編集者の仕事は、本にするために何かを切り捨てないといけませんよね。そうは言っても、切り捨てづらいものです。

Kさん:そうですね。どれも使いたくて迷いました。文章を書かれているのがのらさんで、写真やデザインを担当してくださったのが奥さんなのですが。本書は、切り捨てる部分を高橋さんご夫妻がスパッと決めてくださったので、助かりました。

小島:原稿量が多いタイプですよね。読み物としての厚みがあります。

Kさん:伝えたいストーリーがいっぱいありました。そう言えば、企画をいただいたとき、最初は全部エッセイ調でした。もちろん、それでもよかったのですが、リズムがあったほうがさらによいかなと。それで、豆知識的な、野性味溢れる猫たちはこんな動きをしますよというコラムを入れていただきました。

——著者のツイッターが大人気で、池澤夏樹さんもレビューしてくださったとか。

安在さん:著者の高橋さんは、本書の宣伝のためにツイッターを始めてくださったのですが、あっという間に人気になりました。猫好きの人たちは、常に新しい情報を求めているんだなとわかりました。迷い猫、保護猫情報とのネットワークで広がった部分もあります。

Kさん:猫好きの人のツイッターのタイムラインは、猫写真で溢れています。高橋さんがツイッターで広めてくださったのに合わせて、大分の書店さんや三軒茶屋の猫本を扱っている書店さんも、大々的に取り扱ってくださいました。本書の舞台が大分なので、大分のいくつかの書店さんでは、特製のポップやパネルまで作って宣伝してくださいました。

小島:本書は、いろんな書評で取り上げていただいていますね。「週刊文春」や「アエラ」でも取り上げられています。

Kさん:池澤夏樹さんはじめ著名人の方々もレビューしてくださいました。

山本:猫好きの方には間違いなく喜んでいただける本なので、もっと広がって欲しいですね。

——貴重なお話、ありがとうございました。

【「企画のたまご屋さん大賞」とは】

1年間に「ほんたま」を通して出版された本の中から、 企画のたまご屋さんの会員が、

・販売部数
・企画のユニークさ
・出版文化への貢献

などの観点から、最も評価した書籍に贈る賞です。

今回の選考対象は、2017年10月1日~2018年9月30日に、 企画のたまご屋さん仲介によって発行された36作品です。

文責/『企画のたまご屋さん大賞』委員会 高橋恵治

◆『企画のたまご屋さん大賞』は、2020年をもって終了しました。関係者および応援してくださったみなさま、ありがとうございました!